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アルバムレビュー
 





★ Brun's Boys / Jack Rummel(Diagonal Recordings DRCD-104、1998年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2001.01.14
 ワシントン州タコマ出身のラグタイム・ピアニスト、ジャック・ランメル(Jack Rummel, b.1939)の好企画盤。これは、ブルン・キャンベル(Sanford Brunson Campbell, 1884-1952)の作品、そして彼に影響を受けた作曲家たちの作品を集めた、歴史的にも意義の高いラグタイム・アルバムです。
 キャンベルは、スコット・ジョプリンの数少ない白人の弟子として知られていますが、自作曲の楽譜が未出版のままで、一部のラグ愛好家以外にはあまりなじみがないというのか現状です。しかし、少しでもラグタイムが好きな人にはぜひとも注目してもらいたいラグタイマーです。
 作曲家は、ランメルとブルン・キャンベルの他に、もう亡くなって20年近くにもなるトム・シー(Tom Shea, 1931-1982)、ラグ研究家として名高いトレバー・ティチェナー(Trebor Tichenor, b.1940)、そしてデビッド・トーマス・ロバーツ(David Thomas Roberts, b.1955)がいます。いずれも、モダン・ラグタイムにおける大物たちです。

 ブルン・キャンベルのスタイルは、一聴すればわかる独特のラグタイムのノリを持っています。安っぽい商業音楽でなく、ノベルティーのようにメカニカルでもなく、かといって音楽院出身のピアニストのような格式高い演奏とも違う、生の感覚を保持したラグタイムがそこに現出しています。ラグタイム時代を生き抜いて、1950年代前後にレコードでその当時の息吹を伝えてくれたことが、その後のモダン・ラグタイムにとってとても大きな意義を持っていたのです。
 まずキャンベルが、ラグタイムのリバイバルに果たした貢献は見逃せません。そしてそれ以上に、クラシック界主導のリバイバルと違う道筋を作ったことも注目されます。その道筋を辿ったのが、前述した「ブルンの息子たち」でした。

 彼に多大な影響を受けたトム・シーの曲は、キャンベルの「いなたさ」を活かしながら、そこにクラシック・ラグやブルースの視点を織り込んだ個性的なものです。名曲「Corncracker Rag」(1968)の味わい深さ、痛快な「Brun Campbell Express」(1964)など、早すぎた死が本当に惜しまれる人です。

 このCDの演奏者であるジャック・ランメルは、Stomp Off から「Back To Ragtime」「Lone Jack」の2枚のアルバムを発表しています。弾き方がちょいとモタリ気味なのが独特です。作曲としては、ユニークで親しみやすいラグタイムが魅力的です。ここには入っていませんが、「Lone Jack To Knob Noster」(1993)が傑作として知られています。


 他の二人は著名なので、解説は程々に。ティチェナーのラグタイムにはとても安心感があり、ブルージーな感覚で理屈抜きに楽しめる曲ばかりです。トーマス・ロバーツは、現代ラグタイムの作曲家の中で最も注目すべきです。このCDでは、キャンベルの影響が色濃かった、比較的初期の曲が選択されていて、ナイスな選曲だと思います。

 これだけのメンツの曲を70分以上に渡って楽しめるのですから、ラグタイム好きにはたまらないはず。スコット・ジョプリン以外の現代ラグタイムも聴いてみたいという人には、格好のCDです。

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★ Ragtime Beatles / John Arpin(Fanfare Records Pro Arte CDD373、1987年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2001.01.14
 私は結構ビートルズが好きで、しかもラグタイム、と来れば買わずにはいられませんでした。このアルバムは、CD時代の最もコマーシャルでユニークなラグタイム・アルバムだと思います。

 演奏しますは、クラシック・ラグタイム・ピアニストとしてマックス・モラスやウィリアム・ボルコムらとともに最も有名な一人、ジョン・アーピンです。彼は、レコードも数作(クリオールのフォーク・ラグを収めた『Creole Rags』など)ありますが、ちょうどこの時期から積極的にCDによるラグタイム・アルバムを発表した人です。その演奏スタイルはとても上品なクラシック・スタイル、少しスイングもしているので楽しい雰囲気を持っています。また特にバラード調の曲では、崇高な気品すら感じてしまう、大変上品で情感あふれる演奏が魅力的です。
 少ないながらオリジナル曲もあるようですが、やはり演奏家としての方がよく知られています。そのエンターテナーぶりには、ボルコムよりはモラスに近いものを感じます。

 さて、このCDの選曲を見てみましょう。
 When I'M 64
 And I Love Her
 Maxwell's Silver Hammer
 Here There And Everywhere
 Something
 Norwegian Wood
 Ob-La-Di Ob-La-Da
 Yesterday
 The Fool On The Hill
 Let It Be
 I'm Happy Just To Dance With You
 Honey Pie
 Goodbye

 最後の曲はビートルズではないようです(不親切にも作曲者リストがないため、誰の曲かわかりませんが、多分ポールが他の歌手のために書いた曲ではないかという説があります。ただし未確認情報)。主にポールの曲を中心に親しみやすい仕上がりになっています。やはりポールの曲は、メロディーの起伏や陽気なシンコペーションが多いのでラグタイムにアダプトしやすいようですね。Honey Pie なんて、原曲からもろにラグタイム調なのでピッタリです。
 こういうカバーアルバムの聞き所はやはりアレンジの出来ですが、ジョン・アーピンの編曲はとても素晴らしいセンスで、名曲のフレーズ(ラムのラグタイム・ナイチンゲールや他のクラシックからでしょうか)を織り交ぜながらきちんと転調したり、華麗にアルペジオしたり、時にはノベルティーのようにユーモラスに、スイング・ジャズ調にフェイクしたりといろいろ工夫が凝らされていて、元のモチーフが少ないのに全然飽きないのです。
 そしてその結果、クラシック・ラグとビートルズのテーマが、不思議な一体感で結ばれているのです。クラシック・ラグを知らない人にも、ラグのユニークな入門編としても、そして単なるビートルズ・アルバムとしても、楽しく聴くことのできるCDです。これは疑いなく、私が聞いた中で最も優れたビートルズ編曲の一つで、音楽家の方にはアレンジのよい見本としてもお勧めします。

 さて、ジョン・アーピンは多くのCDを発表していますが、彼の本格的クラシック・ラグ演奏を最も長時間に渡って楽しめるのは、実は意外にもコンピュータ・ソフトです。
 『ラグタイム・ピアニスト』という、日本語版も発売されたことがあるウィンドウズ対応ソフトがそれで、ジョプリンの曲を中心に何と延々90曲(一日二日ではとても聞き終わることができません)のピアノソロが、MIDIで利用できます。MIDIファイルを見くびっている音楽ファンは、MIDI音源(微細な分解能を持ち、ベロシティーをきちんと検知して音色を変えられる音源モジュール)に少しだけお金を掛ければ、その素晴らしい表現力で至福の時を過ごすことができるでしょう。レコードとほとんど変わりません。このソフトはもう店頭でも見つけにくいようなので、知らなかったラグタイム・ファンは借金してでも買いましょう。

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★ Creative Ragtime / David A. Jasen VS Nebille Dickie (Euphonic Sound Records ESR-1206、1980年代前半?)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2001.01.16
 今回は(も?)かなりマニアックなレコードをご紹介しましょう。
 ラグタイム・マニアの間で一時話題になった、カリフォルニアの超マイナーレーベル「Euphonic」の通算6枚目のアルバム。このレーベルはもう無いようですから敢えて言えば、2色印刷のジャケット装丁も、レコードの音質も決して良くありません(なぜか盤面はブルーカラーですが)。いかにも自主制作という感じに見えてしまうのです。
 しかし、内容はすごい。これは、ラグ研究家として名高いデイブ・ジェイスンと、ストライド・ピアノの名手ネビル・ディッキーの夢の共演盤。といっても、A面がジェイスン・B面がディッキーのそれぞれソロという構成。曲目は以下の通り。

David A. Jasen

 Susan's Rag (Dave Jasen)
 Festival Rag (Dave Jasen)
 Contentment Rag (Joseph Lamb)
 Lily Rag (Charles Thompson)
 Dave's Rag (Dave Jasen)
 Cum Bac Rag (Charles L. Johnson)
 Scott Joplin's New Rag (Scott Joplin)
 Heliotrope Bouquet (Scott Joplin & Louise Chauvin)

Neville Dickie

 Calorina Shout (James P. Johnson)
 Geraldine Rag (Neville Dickie)
 Riverside Rag (Charles Cohen)
 Minstrel Man ([J. Russel?] Robinson)
 Kansas City Stomp (Jelly Roll Morton)
 Something Doing (Scott Joplin & Scott Hayden)
 Kinklets (Arthur Marshall)
 Smash-Up Rag (Gwendolyn Stevenson)

 デイブ・ジェイスンについては、当時 Blue Goose Records から2枚のアルバムが出ていて、ここでもその延長上として、彼の個性的な楽しいスタイルが楽しめます。彼は、楽譜通りに弾いていてもいつの間にか自分流にフェイクしてしまいます。ホンキートンク調のピアノの音色がはまっています。
 私が本格的にディッキーを知ったのはこの盤が最初だったのですが、ストライド・ピアニストならではの弾むような左手、快速かつ正確な音使い、その問答無用のパフォーマンスに圧倒されました。ピアノ好きなら、至福のひとときを味わえるでしょう。ディッキーも数多いアルバムを発表しています。ジェイスンのアルバムよりは手に入れやすいでしょうから、未聴の方には是非おすすめします。

 ジェイスンやディッキーのオリジナルはもちろん注目すべきですが、特に最後の「Smash-Up Rag」は無名の女性作曲家 Gwendolyn Stevenson の1914年作(しかも彼女の唯一のラグ)で、もう唖然とするくらい素晴らしい曲です。「Ragtime Rambler」のサイトとダブりますが、やはり女性作曲家のラグは結構いい曲がありますね。

 このサイトの掲示板でも話題になった「ラグタイム音楽研究会」の会報によると、このレーベルでは他に David Thomas Roberts の初のオリジナル曲集「Pineland Memoir」(1983)が発表されています。これも素晴らしいアルバムで、後のCDには入っていない曲もあります。ぜひ再発してもらいたいのですが、無理かなあ。

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★ Zebra Stripes / Tony Caramia(Stomp Off CD1328、1998年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2001.01.21
 ラグタイムやアーリー・ジャズの分野で数多くのアルバムを発表している老舗、ストンプ・オフ・レコードから、まずこのアルバムをご紹介しましょう。
 いわゆる「ノベルティー・ラグ、ノベルティー・ピアノ」のアルバムで、この手のものは今まで、意外にもなかなかお目に掛かれないものでした。ノベルティーについての説明は、つたないながら私(浜田)のホームページでもしていますが、ラグタイム流行の末期(1910年代後期)から初期のジャズの時代まで演奏された、ピアノの技巧的・描写的面が強調されたラグタイムのことだと私は認識しています。

 演奏者 Tony Caramia は1989年に初めてレコーディング(LP「Hot Ivories」)をしたといい、その時点からすでにノベルティーの分野にはまっていたようです。ノベルティーは、通常のクラシック・ラグと違って、ピアニストに超絶な技巧と派手なパフォーマンスを要求するので、その担い手が普通のラグタイムほど多くないようです。  しかし、彼の演奏はダイナミックで、ジャズやストライド・ピアノの世界にも通じる自由奔放なスイング感があります。実際、ストライド・ピアノと何が違うの?と言われると困ってしまうようなジャズっぽい曲も多いのです。そういうわけで、今までの説明がやかましく感じられた人にもお勧めします。

 取り上げている作曲家がバラエティーに富んでいるのも、このCDの魅力の一つです。ちょっと長くなりますが、曲目、作曲家、作曲年を挙げていきましょう。

1.Cataract Rag (Robert Hampton 1914)
2.Kitten On The Keys (Zez Confrey 1921)
3.Whipping The Keys (Sam Goold 1923)
4.Red Peppers (Imogene Giles 1907)
5.Hot Ivories (Ray Sinatra 1927)
6.Coaxing The Piano (Zez Confrey 1922)
7.Juggling The Piano (Sam A. Perry 1924)
8.Racing Down The Black And Whites (Adam Carroll 1926)
9.The Smoky Topaz (Grace M. Bolen 1901)
10.Dizzy Fingers (Zez Confrey 1923)
11.Novelette (Zez Confrey 1923)
12.Blue Lightning (Claude Lapham 1928)
13.Perils Of Pauline (Pauline Alpert 1927)
14.Fancy Fingers (Burn Knowles 1936)
15.Mindin' The Baby (Pauline Alpert 1938)
16.Darts And Doubles (Patricia Rossborough 1938)
17.Lounging Around (Alfredo Gattari 1928)
18.Piano Poker (Pauline Alpert 1935)
19.Flashes (Bix Beiderbecke 1931)
20.How Nice [Wie Nett] (Ernest Fisher 1934)
21.The Dreaming Melody [Die Traumende Melodie] (Ernest Fisher 1934)
22.Inkspots [Tintenklecksse] (Ernest Fisher 1935)
23.Stammering Rhythms [Stotternde Rhythmem] (Ernest Fisher 1935)
24.Zebra-Stripes (Lothar Perl 1932)

 1、4、9曲目だけは普通のクラシック・ラグ、またバイダーベックの有名な19が取り上げられています。バイダーベックの印象派ピアノとノベルティー・ピアノの関係を考えさせる、ナイスな選曲です。

 まず、ノベルティー・ピアノで真っ先にあげられる作曲家 Zez Confrey の作品が何と言っても目を惹きます。2、6、10といった今でもメジャーな代表曲に混じって、意外に叙情的な11が入っていますが、これが素晴らしくよいと思います。
 次いで、女性作曲家 Pauline Alpert の大人っぽいジャズ風の曲がよいです。カラミアもライナーで彼女を賞賛しています。思うに、ノベルティー・ピアノという音楽スタイルは、無くなったのではなく、こうして知的なジャズと結びついていったと見ることもできそうな気がします。
 また、ドイツの作曲家らしい Ernest Fisher は、ポップで可愛らしい曲がいい感じを出しています。まだまだ知らなかった優れた作曲家がいるようです。

 私は、自分のページのラグタイム解説の中で「ノベルティーの人気が定着することはなかった」と書きましたが、ひょっとしたらそれは、大いなる誤解なのかも知れません。ただ私たちが、このピアノ音楽の素晴らしさに、まだ気がついていないだけなのかも知れないのです。
 なお、このCDはウェブ通販店「Jazz By Mail」のベストセラーの一つでもあります。

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★ The Joy Of Joplin / Marcus Roberts(Sony Classical SK 60554、1998年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2001.01.24
 このレビューで取り上げるアルバムの中で、おそらく最も異色のジョプリン・アルバム。タワーレコードにも置いてあるので、ラグタイム関連のアルバムではかなり手に入れやすい部類でしょう。まずは曲目から。

1.The Entertainer (Scott Joplin)
2.Maple Leaf Rag (Joplin)
3.Everything's Cool (Marcus Roberts)
4.Hidden Hues (Roberts)
5.From Rags To Riches (Roberts)
6.The Easy Winners (Joplin)
7.Bethena (Joplin)
8.Play What You Hear (Roberts)
9.Play What's Written (Roberts)
10.The Joy Of Joplin (Roberts)
11.Magnetic Rag (Joplin)
12.Elite Syncopations (Joplin)
13.Before The Party Begins (Roberts)
14.After The Party Is Over (Roberts)
15.Gladiolus Rag (Joplin)
16.A Real Slow Drag (Joplin)

 ジョプリンと、(近年のラグタイム・アルバムでは珍しい)黒人のジャズ・ピアニスト、マーカス・ロバーツ(b.1963)のオリジナルが半々ぐらいに演奏されていきます。しかし、もう全部彼のオリジナルみたいに聞こえてしまいます。彼の特色が発揮されて、もはやラグタイムを素材とつつ洗練されたジャズ・アルバムと化しているのです。

 テンポも自由で、ストライド・ピアノやブギウギの要素も取り入れた、面白いアレンジです。これに近いアプローチとしては、ホンキー・トンクにも精通したディック・ハイマンのジョプリン全集や、有名なラベック姉妹のアルバムなどでも聴くことができますが、ここまでオリジナルを自由に改変してしまうとは、分かっていてもすごいと思います。ガリガリのクラシック・ラグ・ファンから見れば邪道かも知れませんが、ピアノ・ジャズの好きな人にはメチャメチャイケてるアルバムだと思います。
 個人的にお勧めは、ラグタイム・ワルツの名曲ベシーナと、リアル・スロー・ドラッグのアレンジ。ベシーナは原曲もかなり冒険的な調の扱いをしていて、ジャズのアレンジに意外なほどマッチしているのです。このアルバムの中ではむしろ原曲に近い部類に入るリアル・スロー・ドラッグ、これはブルース・フィーリングで聞いてもやっぱり最高です。


 マーカスのオリジナルの方はかなり知的なジャズを感じさせていて、音楽的な冒険を楽しめます。ピアノ・ジャズもここまで奥行きが深いと、クラシックの印象派との類似も感じられるほどですが、要所でやはり楽しくシンコペートします。
 ライナーでは「My goal was to demonstrate the influence of Joplin's music on modern jazz style(私の目的はモダン・ジャズのスタイルにジョプリンの音楽が及ぼした影響を示すことだった)」と書いていて、ああ、そういううれしい見方もあるのかと思ってしまいました。異ジャンルのミックスというよくある手法のアルバムながら、他の企画ものとは一線を画する、地に足が着いたような安心感は、このようなしっかりしたポリシーがあるからなのでしょう。

 なお、このCDもウェブ通販店「Jazz By Mail」のベストセラーの一つです。ラグタイムのアルバムは、一部の例外を除いてジャズっぽいほど売れるということも言えそうですね。

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★ Tempus Ragorum / Trebor Tichenor(Stomp Off CD1282、1994年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2001.01.29

 ラグタイム史に残る名盤と言っても過言ではないでしょう。これぞトレバー・ティチェナーの代表作だと思います。ストンプ・オフから出たこのアルバムから、私は多くのことを勉強し、また心から楽しませていただきました。
 ティチェナーは、もともと世界有数のラグタイム楽譜のコレクターで、あの Dover 社の楽譜「Ragtime Rarities」「Ragtime Rediscoveries」の編集者です。研究家としても名高く、デイブ・ジェイスンと共著した「Rags And Ragtime」はラグタイムの基本文献だと聞いておりますし、ワシントン大学でラグタイムの歴史を教えているとのことです。

 このCDの曲目です。何と24曲入り、75分とほぼCDの限界近くまで入っています。
1.Encore Rag (Tad Fischer, 1912)
2.Distant Lights (A Remembrance) (Trebor Tichenor, 1986-1993)
3.Colonial Glide (Paul Pratt, 1910)
4.Bully Rag (James E. C. Kelly, 1909)
5.Tempus Ragorum (A Ragtime Reverie) (Marshall M. Bartholomew, 1906)
6.Apeda Rag (Dave Harris, 1913)
7.Peroxide (Calvin Lee Woolsey, 1910)
8.Deep In The Ozarks (A Missouri Ozark Blues) (Tichenor, 1993)
9.Barrelhouse Rag (Brun Campbell, copyright 1942, published 1993)
10.T. S. Eliot Society Rag (Tichenor, 1992)
11.Ragtime Reverie (Joseph F. Lamb, copyright and published 1993)
12.Uncle Tom (Hugo Frey, 1916)
13.Ozark Rag (Tichenor, 1962)
14.Rathskeller Drag (Walter C. Dunn, 1910)
15.Pork And Beans (Theron C. Bennett, 1909)
16.Coffee Rag (Lily Coffee, 1915)
17.Twist And Twirl (Les C. Copeland, 1917)
18.Ghosts Of The Missouri Backroads (Tichenor, 1992)
19.That Cherry Rag (Edna Chappell Tiff, 1914)
20.Klondike Rag (George Botsford, 1908)
21.Rosewood Rag (Peter M. Heaton, 1909)
22.A Ragtime Nightmare (Tom Turpin, 1900)
23.The Vintner's Dream (Tichenor, 1991)
24.Stompin' The Grapes (Tichenor, 1993)

 ご覧の通り、あまり知られていない作曲家による優れたラグタイムが楽しめるのが、とてもありがたいです。ティチェナーの演奏は、とても軽くて自然体のタッチがいいのです。リピートの際に変奏を加えたりして、曲の魅力を最大限に引き出しています。
 まず7曲あるティチェナー自作のラグタイムについて触れると、先にも書いたように少しブルースのフィーリングが加わったもので、とても楽しい作風です。よく「研究者や音楽の先生の作る音楽は面白くない」「先生にはなるな、ミュージシャンたれ」と言う人が勉強不足の論客たちの中にいるのですが、とんでもないこと。彼のラグタイムは、ブルースやアーリー・ジャズを取り入れて、クラシック・ラグとは微妙に違った形でのファンキーなスタイルを確立しています。これも、本物のラグタイムのことを誰よりもよく理解しているからこそできるものなのだと思います。

 このアルバムの目玉の一つは、ジョセフ・ラムの未発表曲 11.があることです。予想に違わずとても内容の濃い叙情的なラグタイムで、「Ragtime Treasures」の諸作を思わせるものです。オルタネイトベースにあまりならないところもラムらしいと感じます。ティチェナーのプレイは心憎いほど抑制が利いていて、ラグの失われた名曲を誠実に演奏する姿勢が素晴らしいと思います。

 こんな調子で一人一人の作曲家のことを詳述していったらきりがないのですが、その他注目すべき曲を抜粋しましょう。ジェリ・ロール・モートン風演奏が絶品のポール・プラット作 3.、上品で古風なラグがいい雰囲気を出しているタイトル曲の 5.、トーマス・ロバーツも取り上げた内科医カルビン・ウールシーの独創的な 7.、女性ラグタイム作曲家の型破りで素晴らしい曲2編(16.と 19.、特に 19.は耳を疑ってしまうほどファンク・ミュージックっぽい)、「Black And White Rag」で有名なジョージ・ボッツフォードの隠れた佳曲 20.など。
 また、偉大なパイオニア、トム・ターピン作のラグタイムで、ギター編曲により一部の人に有名な 22.は、オリジナルのピアノを聞く機会がそれほどないかも知れません。

 私はもう何回このCDを聞いたかわかりません。何回聞いても飽きの来ない素晴らしい曲と演奏で、ラグタイムの気品の高さとファンキーなグルーブ感の両方を楽しめるのです。


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★ On The Highwire : Piano Rags, Waltzes and Tangos by Donald Ashwander / Matthew Davidson (piano)(CAPSTONE RECORDS CPS-8680、2000年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2003.01.11
1. On the Highwire (1985)
2. Forgotten Ballrooms (1983)
3. Perdido Bay Moon Rag (1988)
4. Mobile Carnival Rag - Tango (1966)
5. Voodoo Queen (1992) co-written with Matthew Davidson
6. Waterloo Rag (1972)
7. Sunday Night, Manhattan (1975)
8. Empty Porches (1969)
9. Friday Night (1966)
10. Astor Place Rag - Waltz (1966)
11. The Brooklyn Stop and Start (1984)
12. Old Streets (1971)
13. Business in Town (1966)
14. Evanescence (1979)
15. We Danced (1976)
16. Peacock Colors (1967)

 現代ラグタイム作曲家の中でも欠かすことのできない歴史的な人物の一人に、Donald Ashwander (1929-1994) がいます。柔軟な発想で新しいラグタイムを作曲するという、現在のテラ・ベルデにも通じる姿勢は、(Max Morath を除けば)1960年代の Donald Ashwander に端を発すると言っても言い過ぎではないかも知れません。ここでは、そんな彼の作品を、高音質と素晴らしい演奏で楽しめる、最良のCDアルバムをご紹介します。

 演奏者の Matthew Davidson (b.1964、カナダのトロント出身) は、モダン・ラグタイムの流れを継ぐ音楽家で、主に Robin Frost などハイレベルな技巧を含む作曲家の作品に光を当てる、注目すべき仕事をしている作曲家・ピアニストです。ここでも、Ashwander の芸術性をきちんと解釈し、目まぐるしく変わる抑揚や表情をうまくコントロールして、メリハリをつけていることにまず好感が持てます。言葉では表しにくい独特の間のある Ashwander 自身のピアノ・スタイルは、クラシックなラグ愛好家から見れば好みの分かれるところもあるのですが(実は、私自身も最初は取っつきにくかったのを覚えています)、Davidson の演奏は、それらを違和感なくまとめ上げ、さらにリスナーを引き込む力を持っていると思います。

 4. や 9. などの初期の代表作から、女性ピアニスト Nurit Tilles の名演で一部のマニアに知られる佳曲 14.、そして語りまたは歌も交えた曲まで、本当に楽しめるアルバムになっています。
  Davidson 自身、5. を死の二年前の Ashwander と共作していることも特筆すべきで、これがまたマイナーで魅力的な曲です( Davidson は、別のアルバムでこの曲をタイトル名にしています)。William Bolcom の「サーペント・キス」の影響も感じられますが、やはり創意に満ちている一曲です。

 ラグタイムという音楽の、新たな発展への可能性を示した功労者の一人、Ashwander。彼の音楽を経験することは、現代のラグタイムを知る上で避けて通れない道かも知れません。

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★ Dr. John Plays Mac Rebennack(Clean Cuts CCD 705、原盤1981年?, 1988年CD再発)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2003.01.11
1. Dorothy
2. Mac's Boogie
3. Memories of Professor Longhair
4. The Nearness of You
5. Delicado
6. Silent Night
7. Dance A La Negres
8. Wade in the Water
9. Honey Dripper
10. Big Mac
11. New Island Midnight
12. Saints
13. Pinetop

 ラグタイム・ピアノの名盤ならいくらでもご紹介することができますが、ここは少し予想を外して、ニューオーリンズ・ピアノの大名盤を挙げておきましょう。

 ドクター・ジョン! このニューオーリンズ音楽史上に特筆されるべきベテラン・アーティストは、長い間ニューオーリンズのスタジオ・ミュージシャンとして活躍したあと、名盤「ガンボ」(1972)でロック・ファンにも有名になりました。ちなみに、私のドクター・ジョン初体験は、高校生の頃、ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」だったと思います。

 プロフェッサー・ロングヘアーの影響を受けた典型的なニューオーリンズ・スタイル、ブルースのみならずジャズのフレイバーも感じる幅広さ、独特の臭みのあるボーカル、そしてそのワイルドで包容力のあるビート。初めて聞いた頃はあまりその良さがわかりませんでしたが、聞き込む毎に、そして音楽の好みがラグタイムやジャズに近づくと共に、私は彼の音楽の虜になっていきました。私も「ガンボ」が決定打となり、彼がめちゃくちゃ大好きになりました。このレコードを買ってからは、しばらく「アイコ、アイコ、アンデイ!」という掛け声が耳から離れなくて困ったものです。

 このアルバムは、そんな彼の11曲のピアノ・ソロと2曲の弾き語りを収めた、ピアノ・ファン必聴盤です。タイトルの「マック・レベナック Mac Rebennack」とはドクター・ジョンの本名で、音楽シーンのカリスマとしての存在から逃れた、一ピアニストとしての音楽がここに結実しています。
 オリジナル以外にも、「きよしこの夜」のようなトラディショナルもやっています(これがまた普通と全然違う方向に行ってしまって、すごく楽しいのです)。時にはファンキーに、時には華麗かつ落ち着いた酒場の音楽に戻り、彼の音楽の奥深さを感じます。さらに、痛快なブギ・ナンバー(オリジナルの「Mac's Boogie」とパイン・トップ・スミスの古典ブギ)がバキバキと決まっています。

 私は、クラシック・ラグタイムを追求したての頃は、こういうちょっと色の付いたニューオーリンズ・スタイルがなじめなかった時期もありました。いろんなスタイルがラグタイムなどのルーツ音楽から派生しているのを短絡的に考えて、「クラシック・ラグこそ最高」「ブルースに堕してはいけない」という権威主義に影響されていたのです。まだまだ私も青かったのですが、今はもうイケイケ状態で、こういう心の余裕のある音楽を素直に楽しむことができます。いや、それどころか、ひょっとしたらドクター・ジョンこそ、ジャンルの垣根を飛び越えた、現代でもっともメジャーなラグタイマーではないかとすら思えてしまうのです。

 大人の音楽、まさにそんな感じのアルバムです。バーボン・ウィスキー片手に楽しむというのもいいですよ。

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★ Real Ragtime : Disc Recordings from Its Heyday / Various Artists(Archeophone 1001、1998-2001年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2003.01.11
1. Florida Rag (1907) * 録音時期、以下同じ
2. When Uncle Joe Plays a Rag on His Old Banjo (1912)
3. Booster Fox Trot (1915)
4. Berkeley March (1898)
5. Hu-la Hu-la Cake Walk (1901)
6. Dill Pickles Rag (1922)
7. Cakewalk (1907)
8. Everybody Rag with Me (1915)
9. Creole Belles (1902)
10. By the Sycamore Tree (1904)
11. The International Rag (1913)
12. Silver Heels (1919)
13. Canhanibalmo Rag (1911)
14. A Coon Band Contest (1901)
15. You're Talking Rag-Time (1900)
16. Whipped Cream (1913)
17. Deiro Rag (1912)
18. Old Folks Rag (1914)
19. Ragged William (1901)
20. Ragtime Temple Bells (1915)
21. Russian Rag (1918)
22. Hungarian Rag (1914)
23. Wild Cherry Rag (1909)
24. The King of Rags (1907)
25. Darkies Awakening (1904)
26. Cohan's "Rag Babe" (1908)
27. Some Baby (1914)
28. Ruff Johnson's Harmony Band (1917)

 マイナーレーベルの Archeophone Records から出ているこのオムニバス盤は、バンジョーから木琴、アコーディオン、オーケストラ、歌など様々な楽器とスタイルの録音をまとめたものです。まず何と言っても特筆すべきは、その録音時期の古さでしょう。1898-1922 という信じられないくらいビンテージな録音です。言うまでもなく、ラグタイム流行時期とぴったり重なり、歴史資料としての意義ははかり知れません。

 予想はある程度つきますが、ピアノ・ソロという形態の録音は一曲もありませんでした。解説にもその辺のことが書かれています。当時の録音技術では、ピアノ・ソロを十分によい音では収録できなかった、などの事情もあったものの、楽譜の出回っているピアノ・ソロよりも、せっかくだから華麗なアンサンブルで音楽を楽しみたいという人が多かったのでしょう。

 このアルバムでは、様々なスタイルの中でも、バンジョーが大活躍しています。Vess L. Ossman(1, 2, 10, 14, 25.)と Fred Van Eps(12, 16, 18, 27.)と、ヤズーのアルバムには未収録の音源があり、これを聞くだけでも彼らの素晴らしい技量がわかります。
 ブラス・バンドによるラグタイムは、現在でもいろいろなアルバムで聞くことができるのですが、その源流とも言えるパフォーマンスが、例えばスーザの 5. であり、スーザのバンドのケークウォーク・アレンジを担当した Arthur Pryor の 13, 24 だったのでしょう。
 意外と興味深かったのはアコーディオン・ソロでの演奏です。特にイタリア人兄弟である Guiro Deiro (17.) と Pietro Deiro (22.) たちのプレイは実に達者で、アコーディオン演奏の隠された可能性が十分に引き出されています。

 このアルバム全般に言えるのは、その溢れんばかりの陽気なエネルギーに水を差すわけではありませんが、「黒人の演奏者や、黒人の作った曲がほぼ皆無である」ということが言えると思います。これは、「初期のカントリー」と同じ傾向です。
 ラグタイムの歴史上最も有名なパイオニアであるジョプリンやスコット、ターピン、ルイ・ショーバン自身の演奏がなぜレコードで残っていないのでしょうか? 当時の最先端技術であったレコード録音に、人種差別の残っていた時代の黒人が関わる機会は少なかっただろうという事は、容易に想像できます。
 ラグタイムが今でも白人音楽としてのクラシックの一部として扱われている背景は、(クラシック音楽に比肩する、真の黒人のラグを!というジョプリンの意気込みとは全く違う意味で)すでにこの頃からあったという憶測もできます。

 また、レコードの曲が総じて技巧的であり、比較的快速であるという点も言えると思います。すんなり聴ける分、Blind Blake たちのラグタイム・ブルースに聴かれるような、黒人特有のファンキーな雑味がほとんど感じられず、その点では物足りなさを感じる人もいると思います。

 もちろんこの資料の価値は不動であり、演奏もそれぞれに優れているのですが、白人たちの豊富な音源をこうして聴くにつけ、逆に当時の黒人たちの置かれていた状況がかいま見え、ラグタイム音楽の実体を探ることの困難さも露呈するのです。

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★ Rising Star / Tom Brier(Stomp Off CD1274、1994年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2003.01.11
1. Texas Tommy Swing (1911, Sid Brown & Val Harris)
2. Rising Star (1991, Tom Brier)
3. Corn-Shucks (1908, Ed Kuhn)
4. An Autumn Memory (1991, Eric Marchese)
5. The Cake Walk At Boomblestein's Ball (1900, Will Morrison)
6. Olympia Rag (1992, Kathi Backus)
7. Gold Dust Twins Rag (1913, Nat Johnson)
8. Rose Blossoms (1992, Tom Brier)
9. Wizzle Dozzle (1910, Harry Bell & Lloyd Johnson)
10. Brier Patch Rag (1991, Tom Brier)
11. Little Bit Of Rag (unpub., Paul Pratt)
12. Rainy Day Blues (1992, Tom Brier)
13. Piccalilli Rag (1912, George Reeg, Jr.)
14. Spanish Moss (1984, Galen Wilkes)
15. Shiftless Sam (1904, Carlotta Williamson)
16. Three Sisters (1992, Gil Lieby)
17. A Certain Party (1910, Tom Kelley)
18. La Paleta (1991, Tom Brier)
19. Mississippi Smilax (1907, H. Harry Landrum)
20. The Wish-Bone Rag (1909, Charlotte Blake)
21. Just Peachy (1992, Tom Brier)

 ラグタイム・ファンにはおなじみ、名門 Stomp Off Records のアルバム・アーティストの中でも、かなり若い部類に入ると思われる Tom Brier の1994年作(1971年カリフォルニア出身ですから、当時は23歳)。私は遅ればせながら、2002年に初めて聴きました。
 いきなり褒めちぎりますが、このアルバムを聴いて彼の天才を疑うラグタイム・ファンはいないでしょう。それほど、みずみずしい魅力に溢れたピアノ・アルバムです。もはやガンナー・ラースンすらベテランと言えるこのジャンルにおいて、Brier や Reginald Robinson、さらに若い Hamish Davidson など新世代の台頭は、現代ラグタイム界の明るい展望を開いていると言えるでしょう。

 Brier の素晴らしい点は、ウンファウンファと快速に弾むピアノ・プレイの達者ぶりが一番に挙げられます。ガンナー・ラースンほどの深遠な表現力はまだ感じられないものの、ラグタイムのノリの魅力を最大限に生かした、まさに弾むような演奏なのです。
 彼自身の作曲も概してよい出来で、もっとたくさん聴いてみたい気持ちにさせられます。ラグタイム時代の中でも珍しい曲、また自分以外の現代ラグ作曲家の作品を多く取り上げているのも、とても意味のある試みです。曲順からおわかりの通り、新旧世代のラグ作品を交互に弾いているのですが、Brier を含めた新世代の多くが Joseph Lamb などのバラード風ラグを指向していることが多いのに比べ、ラグタイム時代のラグがもっと単純なダンス音楽に聞こえるのが好対照です。どちらが良いということではなく、リスナーを飽きさせないアルバム構成がよいのでしょう。おかげで、74分間があっという間に過ぎていきます。

 作品として特に注目すべきは、Brier 自身のタイトル曲 2 や、テラ・ベルデのようにハバネラのリズムを取り入れた意欲作 18、ピアノ・ロールしか残っていない Paul Pratt の未出版作品 11、このアルバムのフォーク・ラグの中でも特に光り輝いている佳曲 9、そして新世代の作品では 14 や 16 などが耳に残りました。

 なお、他に自主制作盤「Generic」(1997)が出ているようですが、今のところこれと合わせて二枚だけのようです。彼のような素晴らしいピアニストは、もっとたくさんアルバムをつくって欲しいと思います。

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★ The Neglected Professor(Delmark Records DE-738、2000年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2003.01.11
(作曲者の表示がないものは Thompson 作。)
1. Lily Rag #1
2. Delmar Blues
3. When Sambo Goes To France (Tom Turpin)
4. Delmar Rag
5. The One I Love (Kahn / Johns)
6. Centennial Rag
7. The Dream (Jess Pickett)
8. Dicty's On 7th Avenue (Eubie Blake)
9. Lingering Blues
10. Carolina Shout (James P. Johnson)
11. Five Foot Two (Henderson / Lewis / Young)
12. St. Louis Blues (W. C. Handy)
13. 12th Street Rag (Euday Bowman)
14. Maori (William H. Tyers)
15. Derby Stomp
16. Leola (Two-Step) (Scott Joplin)
17. Lily rag #2
18. Brother-In-Law Dan (Joe Jordan)
19. Delmar Rag
20. St. Louis Blues (W. C. Handy)
21. When Sambo Goes To France (Tom Turpin)
22. How Deep Is The Ocean (Irving Berlin)
23. Go Back Where You Stayed Last Night (Waters / Easton)
24. Tennesse Waltz (Stewart / King)
25. Chimes Blues
26. Lily Rag #3

 先にご紹介した「Real Ragtime」のような、白人アーティスト中心のビンテージ録音は、確かにラグタイム時代の音楽のある側面を伝えるものです。しかし、ラグタイム時代のピアニストたちが後の時代に残したピアノ・ソロ演奏は、より深くラグタイムの神髄を体感できるものとして、その重要度はさらに高いと思います。そういうアーティストは、例えば Eubie Blake, Joe Jordan, James P. Johnson, Brun Campbell, Luckey Roberts, そして Joseph Lamb などですが、今回取り上げる Charles Thompson のアルバムも貴重なものです。

 Charles Thompson (1891-1964) は、ミズーリ出身。ジョプリンからの伝統あるクラシック・ラグと、 James P. Johnson から受けたハーレム・スタイルのストライド・ピアノの影響をミックスさせた、即興演奏を含む興味深いスタイルを持ちます。
 彼は、1916年にセントルイスで行われたラグタイム・コンテストで、あのアーサー・マーシャルやトム・ターピンを破って優勝したという、知る人ぞ知る実力者でした。特に、ジョプリンがセントルイスを去った後コンテストで連戦連勝だったトム・ターピンを最後に破ったことは、語り草になったそうです。

 楽譜は読めなかった(というか嫌っていた)そうで、コンテストでも弾いた彼の代表作「The Lily Rag」の楽譜は、アーティー・マシューズが採譜したものでした。当時出版された楽譜はこれだけのようで、このことは、彼の音楽的実力に比して知名度が今一つである理由になっていると思われます。アルバムタイトルの「The Neglected Professor(無視されてきた先生)」は、そんな意味合いから付けられたものでしょう。

 このアルバムは1960年代のライブ録音で、彼の長いキャリアの中では晩年の演奏(70歳あたりの頃)ですが、ストライド・ラグ風の年季の入った演奏が、孤高の境地を感じさせます。楽譜になっていない、彼のオリジナル・ラグ 2, 6 なども聴き所ですが、Tom Turpin, Scott Joplin, Joe Jordan といった人たちの曲を自分流に取り上げているのがおもしろいです。

 ストライド・ピアノとラグタイムの境界線で、異彩を放った伝説のラグタイマーのことを、私たちは今一度注目すべきだと思います。

 なお、彼のアルバムは、他に以下のものがあります(これら以外のものがあれば、ご教授お願いします)。
★ Dink Johnson - Charlie Thompson [American Music AMCD11、1993年、録音は1946-1948年]
★ Golden Reunion in Ragtime / "Ragtime Bob" Darch, Eubie Blake, Joe Jordan, Charlie Thompson [Hapi Skratch Records HS75021、1962年、CD再発年不明]

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★鍵盤上の子猫〜ゼズ・コンフリー/ノベルティ・ラグの名技(WARNER CLASSICS WPCS-11686、2003年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2003.08.15
 これは、技巧的かつ描写的ラグタイムの一種「ノベルティー・ピアノ」の第一人者、Zez Confrey (1895-1971)のピアノ・ロール・アルバムの日本盤です。彼が主に1920年代に残したピアノ・ロールを、現代の技術で再生した、非常に歴史的意義のある好アルバムです(Artis Wodehouse による自動演奏も数曲含む)。

 ピアノ・ロール(ロール紙に穴を開けて演奏を記録させる自動ピアノ)というと、普通はノリの悪い機械的な音を想像してしまいますが、このアルバムで蘇った最新の音を聞けば、そんな偏見は完全に消し飛んでしまいます。今までも Confrey の曲を他の演奏家が取り上げたアルバムを何枚か聴きましたが、面白いことに、そうした人間の演奏以上にノリノリなのです。私が今まで聴いてきたピアノ・ロール盤の中でも、疑いなく最高の一枚です。

 Confreyは、もちろん素晴らしいピアノ・テクニックの持ち主でしたが、他にも「ピアノ・ロール職人」としての特別な才能があったようで、実際の演奏の記録・再現にとどまらず、そこにピアノ・ロールでしかできない音楽的仕掛けまで加えて、まばゆいばかりの音楽的輝きが現出しています。シーケンサーの無かった時代、よくぞここまで痛快な演奏を記録することができたものだと思いますし、再現した Artis Wodehouse らの技術も見事です。

 さらに、彼の素晴らしい作曲や編曲を、23曲もまとめて聴けるアルバム自体、珍しいと思います。
 少しでもピアノ・ラグに関心のある人は、このアルバムを逃してはいけません。

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★Roberts Plays Roberts / Tom Roberts(Stomp Off CD1345、1999年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2004.10.04
1. Ripples Of The Nile/2. Spanish Fandango/3. Railroad Blues/4. Blue Fever/5. Spanish Venus (Willie "The Lion" Smith version)/6. Pork And Beans/7. Complanin'/8. Music Box Rag/9. Shy And Sly/10. Nothin'/11. Spanish Venus (Eubie Blake version)/12. The Junk Man Rag/13. The Irresistible Blues/14. Outer Space/15. Inner Space/16. Palm Beach/17. Bon Ton Cakewalk/18. Mo' Lasses/19. Rose Time And You

 「ハーレム・ストライド・ピアノ」のゴッド・ファーザーと言われる伝説の名ピアニスト、Lucky Roberts(1887-1968)の曲を収めたピアノ・ソロCD。ラッキーは、ラグタイム時代からすでにストライドの感覚を持っていた人です。そのピアニスティックな技法を発揮した華麗な演奏には、James P. Johnson も心酔していたといいますし、おそらくあのガーシュインも影響を受けていたと思われます。
 ダイナミックな曲ばかりかと思いきや、意外にクラシックのような上品さも感じられ(オーケストラとの共演もあったそうです)、単に楽しいだけでなく音楽的な底の深さ、そして斬新なチャレンジ精神も感じる曲を多く作曲しました。

 なぜかあまりアルバムを出さなかった(それ故、それほど名前が知られなかったと思うのですが)このラッキーの曲集をまとめたのは、現代ストライド・ピアニストの天才、トム・ロバーツです。ラッキーの曲には楽譜が出版されていない曲が多いようで、ここでは多くの曲をトムが採譜したりアレンジしたりしています。微細な装飾音を含む曲が多く、その採譜は困難を極めたと思われます。
 彼は、最近(2003年)ウィリー・ザ・ライオン・スミスの曲集『In The Lion's Den』を発表しました。こちらは未聴ですが、いずれもストライド・ピアノの巨匠に光を当てる、素晴らしい仕事をしていると思います。

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★Silks And Rags / Alexei Rumiantsev(赤坂工芸音研 AKL-018、2004年)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2004.10.04
1. 12th Street Rag/2. Palm Leaf Rag/3. The Stinging Bee/4. Key-Stone Rag/5. Charleston Rag/6. Eugenia/7. Shovel Fish Rag/8. Silks And Rags/9. The Entertainer/10. Cataract Rag/11. Red Peppers/12. Maple Leaf Rag/13. Granpa's Spells/14. Swipesy/15. Carolina Shout/16. Horseshoe Rag/17. Who Let The Cows Out?/18. Tom Cat Blues

 関東方面での精力的なライブ活動で、今や音楽ファンにおなじみ、ロシア人ピアニストの Alexei Rumiantsev さんのデビューCD「Silks And Rags」を購入しました。素晴らしく痛快でした!
 Alexei さんの演奏は、ストライド風にスイングする楽しいスタイルで、クラシックに裏打ちされたテクニックも正確無比、さらに快速に飛ばします。何も悩まず肩の力を抜いて、気軽に楽しめるアルバムだと思います。

 選曲はジョプリンだけでなく、モートン(やはり Granpa's Spells は絶品!)、James P. Johnson、有名・無名の作曲家まで多岐にわたっています。有名な「12番街のラグ」のオリジナル・バージョンは、フルで聴いたことのある人は意外と少ないかも。タイトル曲「Silks And Rags」は初めて聴きましたが、音楽的に変化に富んでいて、素晴らしい曲だと思います。

  日本人ラグタイム・ピアニストで有名な人には池宮正信さんがいますが、その主な活動拠点はアメリカです。日本で活動するアーティストの本格的なラグタイム・ピアノ・アルバムは、実は意外にもこれが初めてなのではないでしょうか。
 このアルバムが呼び水となって、日本でももっとラグタイムの陽気な響きが受け入れられる日が来ることを望みます。
http://homepage3.nifty.com/grandpasragtime/index.htm

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★ Joplin: Rags & Ragtime / Various(Universal Classics B0002916、2004年)
解説 / 青木 日高さん(JRC会員) / 掲載日2005.02.12
『アメリカ音楽史の財産として聴く スコット・ジョプリン』

 ピアノソロからブラス・アンサンブル、オーケストラ、そしてオペラ『トゥリーモニシャ』からの抜粋と、てんこ盛りの本作品ですが、「音楽家・ジョプリン」へのオマージュとして見れば、ある意味で<統一感と記念碑的な価値>が感じられるCDとも言えましょう。一連の廉価版シリーズにおける1枚であるとは言え、発売元がユニバーサルクラシックスで、自社関連レーベルの演奏者からの抜粋(のよう)ですから、いわゆる「バッタ物」的な雰囲気を脱却した正統性の点からも評価される所です。特にCD表紙のスタイリッシュかつレトロティックな雰囲気や、中のライナーノーツの文章には大変に魅力が感じられます−ノーツは恐らく、JRCでも引用させて頂いている、あのバーリン氏の著作を参考にして書かれており、2番目の妻フレディの早すぎる死や『トゥリーモニシャ』にジョプリンが注ぎ込んだモノの価値(黒人救済への道は「教育」を通じて、というジョプリンの信念と、それが当時のみならず今日においても主要なトピックである点)への記述には、従来の廉価版CDにありがちな「とりあえず書いておく」というイージーさを脱却した素晴らしさが見て取れましょう。

 演奏は、Morten Gunnar Larsen (Piano), Philip Jones Brass Ensemble, Boston Pops Orchestra, Houston Grand Opera Orchestra といった面々で聴き応え充分ですが、初心者の方が最初に購入するにしては、このボストンポップスの『メープル・リーフ』は、いささかヘビーかも・・・個人的には、最初にリフキンのピアノ(廉価版1,000円)を買った後の2枚目に、というのをお勧めします。

「アメリカ音楽史の貴重な遺産・ジョプリン」について、耳から知る、という点では、ぜひ「クラシック・ファン」にもお持ち頂きたい1枚です。

(曲目)
1.Entertainer 2.Cascades 3.Solace - A Mexican Serenade 4.Scott Joplin's New Rag
5.Easy Winners 6.Gladiolus Rag 7.Ragtime Dance 8.Elite Syncopations
9.Bethena (A Concert Waltz) 10.Paragon Rag 11.Maple Leaf Rag  12.Sugar Cane Rag
13.Swipesy Cake Walk 14.Magnetic Rag 15.Pineapple Rag
16.Overture 17.We're Goin' Around (A Ring Play) 18.Frolic of the Bears
19.We Will Rest a While 20.Prelude 21.Entertainer (Reprise)

(購入)
2004年2月現在、ネット上では900円弱でした。なお、下記の英国タワーレコーズのサイトに試聴サンプルとかなり詳しい情報が出ていますので、ご参考に。
http://uk.towerrecords.com/product.aspx?pfid=3063304&urlid=78b37253f66e90bc3e47

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● ラグタイムギタリスト、浜田 隆史さんによるアルバムレビューを掲載しています。浜田 隆史さんについての情報は、オタルナイ・レコードのホームページをご覧になって下さい。
● 本レビューに関するご意見・ご感想はJRC事務局(ragtime@zac.att.ne.jp)までお寄せください。
● アルバムレビューをご提供いただけるJRC会員の方は、JRC会員専用フォームにて記事をご投稿下さい。




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