■ Rialto Ripples (1916)/George
Gershwin & Will Donaldson
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ガーシュインが18歳の頃最初に出版した曲。時代背景から言っても、曲想から見ても、まさにラグタイムですが、残念なことにガーシュインはラグタイムをこの一曲しか書きませんでした。ガーシュインのその他のピアノ作品から見ても、この曲は少し軽めの曲ですが、やはりラグタイムの名曲です。 最初のテーマは短調(D#m調)、ベースや細かい装飾音、洒落た雰囲気などが、まさにハーレム・ストライド・ピアノ(「ラグタイムのルーツ、近しい音楽について」のジャズの項参照)の特徴を備えています。「さざ波(ripples)」の描写的音楽とも思えるので、ノベルティーの雰囲気も持つと言えるでしょうか。 ガーシュインが活躍した時代は、すでにラグタイムは過去の遺物になっていました。もし彼がもう10年早く生まれていれば、ラグタイム3巨頭を脅かす存在になっていたかも知れません。実際、同時期にアーリー・ジャズの世界で活躍していた偉大なアーティストたち、例えば
Jelly Roll Morton や James P. Johnson なども、さすがにガーシュインの名声にはかないません。彼は特に「スワニー」「アイ・ガット・リズム」など多くのポピュラー・ソングで大成功したので、知名度でも群を抜いています。 なおこの曲は、やはりというべきか、ラベック姉妹、ウィリアム・ボルコム、池宮正信といったクラシック肌の演奏家に多く取り上げられています。いわゆる純粋なクラシック・ラグとはひと味違うこの曲、短くてチャーミングなので、シリアスなコンサート・ピアニストたちのレパートリーにも最適だと思います。 P.ソロ CD:Gershwin Piano Music & Songs/William Bolcom & Joan
Morris from 浜田隆史さん/掲載日 2005.05.05 |
■ Roberto Clemente (1979)/David
Thomas Roberts
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アメリカ大リーグ、ピッツバーグ・パイレーツの名右翼手だったロベルト・クレメント(1934-1972)の名をそのまま取った曲で、トーマス・ロバーツのラグタイムの中でも最も有名な曲。 彼に捧げられたこのラグタイムは4楽節で、トーマス・ロバーツの詩的な側面と、ラテン・アメリカ世界への憧憬が伺えます。ミディアム・スローで淡々と演奏されるメロディーはバラード調で、訴えかけるような美しさを讃えています。さらに、全編を通しての内声の巧みさは目をみはります。特に第3楽節で聞かれる和音の響きはとてもセンシティブで、ピアノのロマンチシズムをよく引き出していると思います。第4楽節は、クライマックスにふさわしく起伏のある印象深い音型で、音使いの中にやはりビギンなど西インド諸島の音楽の雰囲気を感じます。 さて、私が把握しているトーマス・ロバーツのラグタイム曲の中で、1978年以前の曲は以下の曲です。 そんな中、「Anna」などはロベルト・クレメンテと雰囲気に近く、クラシカルな佳曲です。彼が研究対象にしていた「フォーク・ラグ」の世界を感じます。私は、単に無名の作曲家のクラシック・ラグと捉えていますが、トーマス・ロバーツはもう少し詳しい定義をしています(詳細は割愛)。 私が初めてトーマス・ロバーツを聞いたのが会社員になりたての頃だったので、もう十数年前です。新間英雄さんに教わってから、本当に狂ったようにむさぼり聞きました。あんまり感動して、自分の最初のCD『Ragtime
Guitar』(1992)の帯の裏にも、彼の名を引用させていただきました。しかし最近インターネットにつなぐまで、彼の1992年以降の動向がよくわかっていなかったので、それだけでもインターネットを使う甲斐があったと思っています。 なお、どうやらトーマス・ロバーツは野球好きのようで、ロベルト・クレメンテの他にも、今は無き野球場「ポロ・グラウンズ」に捧げられた「Last Days Of The Poro Grounds」(1986-1987)という曲があります。彼には珍しくラグタイム・ワルツとしての体裁を持っていて、これも感動的で素敵な曲です。 P.ソロ CD:15 Ragtime Composition/David Thomas Roberts from 浜田隆史さん/掲載日 2005.05.05 |
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