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■ Original Rags (1899)/Scott Joplin

 ジェリ・ロール・モートン Jelly Roll Morton(1890-1941)は、ニューオーリンズ・スタイルを確立した人です。彼については他の所でもさんざん触れているので、今さら口を酸っぱくすることもないのですが、ラグタイム史上絶対に落とせない音楽家です。しかし、ジャズ・ファンから「古すぎる」と言われたり、ラグタイム・ファンからは「ジャズの人でしょ?」と言われたりと、必ずしも正しい評価を受けているとは限りません。

 彼の作曲を取り上げていろいろ解説したい気持ちももちろんありますが、ここは思い切り裏をとって、彼が死ぬまで敬愛したスコット・ジョプリンのカバー・バージョンを見ていきたいと思います。モートンは、この曲がジョプリンの中でも特にお気に入りだったようです。私は最初、レバインの正統派演奏にぞっこんだったので、先入観で見てしまって、モートン・バージョンは大嫌いでした。

 いろいろなラグタイムを聞いていくと、その音楽のくせがピアニスト、ある特定の地域などによって変わっていることに気がつきます。ニューオーリンズ・スタイルでは、その歯切れのよいベース・カッティングとベースラインの先取り技法、3連符によるアクセントの多用、盛り上がる部分でのブルーノートを入れたリフレインの仕方など、要所に「いかにも」というやり方があるのです。そういうやり方が、クラシック・ラグとして初期の曲である「Original Rags」に適用されたのです。クラシック・ラグを聞き始めた当時の私から見れば、これは「ミスマッチ」以外の何物でもなかったのです。

 とにかく楽譜通りにならない、いや、楽譜通りに弾かないことが、優れた演奏家のステイタスだといわんばかりなのです。しかし私も、それからいろいろなラグ、いろいろな音楽を聴いていき、最初のミスマッチ感覚が、実は音楽形成の最も本質的なところにあるものだということがわかってきました。そして、それに気づいた瞬間、妙にこのバージョンが好きになってしまいました。それどころか、モートンのバージョンが、オリジナルとはまた違った味のある曲として、見事に再生していることに感動できるようになったのです。

 だいたい、もとの「Original Rags」という曲も、ジョプリンが酒場巡りで集めたいろいろな魅力的なフレーズをまとめ、さらにそれを Neil Moret の別名でも知られる Charles N. Daniels が編曲したという、たくさんの人の知恵が入った曲なのです。これは、今となっては詳しいことは不明ですが、ラグタイム時代では決して珍しいことではなかったようです。

1. 例えば H. H. McSkimming の「Felix Rag」(1910)第三・第五楽節と、E. A. Windell の「The Pirate Rag」(1904)第二楽節には、ほぼ同じテーマが使われています。そして、後の時代の「Felix Rag」の方がより音楽的にまとまりがいいように感じます。可能性としては、より前の E. A. Windell がオリジナルだったか、さらにこの人の前にそういうテーマが演奏されていたかどうかが考えられます。しかし、似たようなメロディーをコンピュータ解析するわけにもいきません。それをやったらもっと多くの作品に、似たようなフレーズが数多く発見されることでしょう。

2. ラグタイムは元々組曲形式を持っていたため、印象的なメロディーを次々とつなぎ合わせた「メドレー」の曲が多く存在します。その中には、明らかに他の歌から採譜したと銘打っているものもあります。この「Original Rags」もそうしたメドレーの一つです。このメドレーで有名な曲は、例えば Max Hoffman の「Rag Medley」(1897)、ラグ史上最も多い楽節(?)を持つ曲として知られる Frank X. McFadden の「Rags To Burn」(1899)、自然界を含めた全ての音をピアノでオウムがえしに奏でることが出来たという天才・Blind Boone の「Southern Rag Medley Vol.1-2」などです。

 これらの現象は、音楽を基本的には作曲者のみの所有物にしてしまう、現行の著作権法の考え方とは相容れない所があります。誰がオリジナルかなんて、楽譜を出した人も本当はわかっていなかったのかも知れません。頭の中で繰り返すうちに、吸収して「自分のメロディー」になってしまうことはよくあることです。こういう「知恵の集合体」としての「Original Rags」を、そういう消化吸収能力にかけては誰にも負けないモートンが選んだことに、とても自然なものを感じてしまうのです。

 これは私の考えですが、音楽は「伝言ゲーム」に似ています。伝承されてこそおもしろくなっていくものであり、決して一人の作曲家に帰属するものではなく、多くの人々の力がそこに託されているのです。パクリも含めて。

 思うに、ラグの分野だけで見ても、伝承されなかった曲はたくさんあると思います。ラグタイムには、本当ならもっと別の方向に行ってもいいのに、という道が他にもあったのかも知れません。ジェリ・ロール・モートンのすばらしい演奏能力と、様々な音楽を取り込む力には、初期のジャズ・そしてラグが持っていたはずの、たくましい雑食性と可能性を感じることが出来ます。

P.ソロ CD:Maple Leaf Rag/Morten Gunnar Larsen
P.ソロ CD:Piano Creole-Vol.3 1926-1939/Jelly Roll Morton
P.ソロ CD:The Complete Piano Solos 1923-1939(2CD)/Jelly Roll Morton
P.ソロ CD・LP:Plays Jelly Roll Morton Piano Solos/Butch Thompson
P.ソロ LP:ジャズ〜ストンプ〜スイングの創始者 (2LP)/Jelly Roll Morton

from 浜田隆史さん/掲載日 2005.05.05


 
 


 
 


 
 


 
 


 
 


 
 


 
 


 
 


 
 













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