■ Hilarity Rag (1910)/James
Scott
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私は、この曲がジェームズ・スコット James Scott の中では一番好きです(もちろん他にいい曲は多いですが)。ラグタイム史上に残る名曲だと思います。 イントロなしでいきなり高音からおりてくるダイナミックな音型が、まず衝撃的。私は、一番最初にこの曲を行きつけの喫茶店で聞きました(演奏は Max Morath)が、聞いた瞬間、思わずレコードジャケットを見返してしまいました。スコットお得意の、第一楽節では終止をしないで次に続けるという構成も光ります。当時、私はまだまだジョプリン以外のラグタイムを聞いた経験がなく、ここで初めて James Scott のラグに接したのでした。 まるで稲妻のようなこの第一楽節の勢いは、第二楽節でさらに狂おしいまでに結実します。徐々に最高音域まで上り詰めるのに、下降音型を使っているのが、劇的な効果をさらに演出しているのです。解決のメロディーも、起伏あふれるすばらしいものです。この完璧な前半部分だけで、私たちはジェームズ・スコットのハイ・クラス・ラグタイムの真髄を十分に知ることができます。原曲では、なぜか第二楽節の後すぐに第三楽節になってしまいますが、Max Morath は、すばらしい第一楽節を繰り返し、自分流の終止を加えています。Max Morath は、このように楽しい演出を加え、ラグに命を与えた人です。私は、この Max Morath バージョンが特に好きです。 その勢いを持続させるのに、スコットは彼としては珍しい4楽節ラグの形式を選択しました。第三楽節が、さらに限界までシャウトするような力作なので、そこでリフレインさせるのはもったいないと感じたのでしょう。その結果4楽節となり、どの楽節を取っても高音域が華麗に鳴り渡る、音楽的に豊富な曲になったのです。特に第四楽節は、ジョプリンの「Pine Apple Rag」(1908)第二楽節の直接的影響を受けていますが、強引に押し切るようなパワーを持っていて、すばらしいフィナーレを飾っています。ともすれば音楽的濃度を薄くしかねない「コール・アンド・レスポンス」を、この第四楽節でしか使わなかったのも、バランスがとれています。 このラグの名曲は、演奏がかなり難しいらしく、それほど頻繁に演奏される曲ではなさそうです。だからこそ、ぜひいろんなピアニストの演奏を聴いてみたいと思います。最近のCD『More American Souvenirs/Frank French』は、この曲以外にもスコットの Don't Jazz Me(1921)や Climax Rag(1914)を収めています。ラグの正統なノリを再現したすばらしい演奏なので、スコットファンにお勧めです。 また、このピアノでも難しい曲を、Leo Wijnkamp Jr. はギターにアレンジしています。す、すごい。指から血が出そう。私は、Climax Rag のアレンジを練習しているとき、本当に指から血を出してしまったことがあります。 私のディスコグラフィーは以下の通り。データベースからの打ち出しです。また、このディスコグラフィーには、ピアノ・ロールとMIDIを除いています。 P.ソロ CD:American Beauties/Glenn Jenks from 浜田隆史さん/掲載日 2005.05.05 |
■ Heliotrope Bouquet (1907)/Scott
Joplin & Louis
Chauvin
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ジョプリンが他の人と残した「共作ラグ」は、どれもが傑作として知られています。特にアーサー・マーシャルとの共作「Swipesy」(1900)、スコット・ヘイドンとの「Sunflower
Slow Drag」(1901)は、メイプル・リーフ・ラグの後に立て続けに当たり、ラグタイム黄金時代の代表的な曲になりました。 美貌の青年ルイ・ショーバン(1881-1908)は、セントルイスをベースに活躍したクレオールのラグタイマーで、すぱ抜けてピアノの上手い人だったようです。他のページでも少し触れましたが、1904年にラグタイムの早弾きを競う「カッティング・コンテスト」で優勝しています。また、「当時、最もクリエイティブだった音楽家の一人」と言われるほどの人でした。 ジョプリンとショーバンは、同じセントルイスに住むラグタイマーとして、自然に交流していたのでしょう。ジョプリンの数少ない白人の弟子だったブルン・キャンベルは、彼とジョプリンとのやりとりをこう振り返っています。「天性の能力を持つ偉大な黒人即興演奏家、ルイ・ショーバンは、セントルイス界隈ではトップ・ピアニストだった。彼はジョプリンにラグタイム演奏を教えていたと噂されているだが、それは違う。彼らはお互いに編曲の技や難しい小節などのアイデアを交換し合っただけで、彼がジョプリンの先生だったというのは単なるホラだ。...」(『Ragtime:
Its History, Composers, and Music" (1985) Edited by John Edward
Hasse 』より) ショーバンが担当したイントロ・A・Bパートは、普通のラグタイム曲とかなり趣の違う、メランコリックなメロディーです。ストレートにオルタネイト・ベースにならないところ、クリオールの音楽で好んで使われるベースの半音進行的なところも変化に富んでいます。ジョプリンがそれを引き継いでC・Dを作っていますが、これ以上ないと言うくらい見事にオーソドックスなラグタイムなのです。ユニークな前半、オーソドックスにまとめる後半が好対照で、共作ラグの魅力をこれほどはっきりと表した曲も少ないと思います。優れた音楽家の残した最後の結晶を巨匠がサポートして完成した、ラグタイム史上の名曲です。以下に挙げる通り、演奏例も多い人気のある曲と言えるでしょう。 P.ソロ CD:Ragtime -Piano Solo-/Mimi Blais from 浜田隆史さん/掲載日 2005.05.05 |
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