■ Dill Pickles (1906)/Charles
L. Johnson
|
今まで取り上げた曲の中でも、抜群の知名度を誇るラグの名曲。ピアノでもギターでもバンド演奏でも、とにかく幅広く取り上げられている曲です。音楽的には、(ラグタイム・ギターの方法論でも触れましたが)セカンダリー・モチーフという、白人ラグタイマーによくある音型を使い、にぎやかな楽しい曲になっています。そのため、ホンキートンク・ピアノやオールド・ジャズのレパートリーとしても人気になりました。 作曲者 Charles L. Johnson (1876-1950) は、カンサス州出身の白人ラグタイマーで、生涯に32曲のラグを残しました。これは、白人としては Joseph F. Lamb に次いで多い数です。Lamb に未出版のラグが多い事を考えれば、実質ラグタイム時代においては最も多作家だった白人作曲家です。このディル・ピクルスは、その中でも最大のヒット作です。 ギター・ファンには、ドク・ワトソンなどの演奏で有名ですが、当のドクはこの曲に関して「フィドル・チューン」からアレンジしたと言っているようです。つまり、初期のカントリー・バンドが元のピアノ曲をアレンジして演奏し、それがまた新たな原典となっているようなのです。このことからも、いかにこの曲が多くの人に愛されたかがわかります。ストリング・ラグタイムのトラディショナルとして有名な「Ragtime Annie」「Beaumont Rag」などのいわゆる「フィドル・チューン」も、ひょっとしたら元はピアノ曲だったのかも?...と、私などは邪推してしまいますが、必ずしもそうではないらしいのが複雑なところです。だいたい、ストリング・ラグにおいては、それほどピアノ・ラグの形式が厳格に取り上げられたわけではなく、メロディアスな楽節だけをピックアップしてアレンジするというようなことが普通でした。トラディショナルと銘打たれた楽曲の原典を探すことは、予想以上に困難なことでしょう。 さて、こんな楽しい曲の解説にはふさわしくないかも知れませんが、ストリング・ラグのレパートリーをいろいろ見ていくと、明らかにある傾向に気付きます。つまり、黒人作曲家のラグがほとんどないと言っていいくらい少ないのです。ピアノ・ラグと比べると、その差は歴然としています。例えばジョプリンのラグタイムは、ピアノのレパートリーとしては必須でも、ストリング・ラグのレパートリーとしてはほとんど取り上げられていないようです。確かにラグのメジャー・ヒットの多くは白人が作ったものですが、それでも黒人作曲家のメジャー・ヒットをここまで無視するのは不自然です。これははっきり言えば人種の問題であり、初期のカントリーが、歴史的には明らかに白人至上主義の音楽であったことを物語ると私は思います。彼らは黒人音楽ではなく、「クーン・ソング coon song (白人のイメージする)黒人の歌」を好んで演奏していたのです。 少し話題が横道にそれたようなので、話を戻しましょう。Charles L. Johnson は、Raymond Birch という変名も使っていました。私の勉強不足で、なぜそのような変名を使っていたかはよくわかりませんが、Raymond Birch の作として一番有名なラグは、あの Powder Rag (1908) です。この曲も、ギター・ファンならご承知ですね。ロリー・ブロックのソロ編曲で有名になった佳曲です。このように、ジョンソンのラグは、ジョプリンほど深い味わいこそ無いものの概して良い出来で、凡百の白人作曲家とは明らかに一線を画しています。この曲以外聞いたことのない人は、是非他の作品もチェックしてみて下さい。 P.ソロ CD:Razzmatazz Vol.I/Mark P. Wetch from 浜田隆史さん/掲載日 2005.05.05 |
(C)2001- Japan Ragtime Club.
All Rights Reserved.