ジョセフ・ラムについて |
ここでは、ラグタイム三巨頭の一人、Joseph F. Lamb (1887-1960) の残したラグについて、比較的多く紹介されてきたスターク出版のラグ以外の曲を中心に、私が知っている事を解説したいと思います。
◎ラムの作品リスト
まず、彼の残したピアノ曲のリストを記します。これは「ラグタイム3巨頭の作品リスト」の転載に手を加えたものです。改めて見ていくと、スターク時代のラグが彼の全てではないことがお分かりいただけると思います。
《スターク以前・以後のピアノ曲(ラグではない)》
Celestine Waltzes (1905)
The Lilliputian's Bazaar (1905)
Florentine Waltz (1906)
Mignonne (1901) ワルツ (published in the "A Little Lost Lamb" 2004.)
Lorne Scots on Parade (1904) マーチ (published in the "A Little Lost Lamb" 2004.)
My Queen of Zanzibar (1904) マーチ (published in the "A Little Lost Lamb" 2004.)
Red Feather (1906) マーチ (published in the "A Little Lost Lamb" 2004.)
Spanish Fly (1912) マーチ (published in the "A Little Lost Lamb" 2004.)
Gee, Kid! But I Like You (1909) 歌曲 (published in the "A Little Lost Lamb" 2004.)
I Want To Be A Birdman (1913) Words by G. Satterlee 歌曲 (published in the "A Little Lost Lamb" 2004.)
I'll Follow the Crowd to Coney (1913) Words by G. Satterlee 歌曲 (published in the "A Little Lost Lamb" 2004.)
《スターク出版のラグ(全12曲)》
Sensation (1908) -A Rag- (Joplin supported Lamb by allowing his name as "arranged by Scott Joplin".)
Ethiopia Rag (1909)
Excelsior Rag (1909)
Champagne Rag (1910)
American Beauty Rag (1913)
Cleopatra Rag (1915)
Contentment Rag (1915)
Ragtime Nightingale (1915)
Reindeer (1915) -Rag Time Two-Step-
Patricia Rag (1916)
Topliner Rag (1916)
Bohemia Rag (1919)《Ragtime Treasures (全13曲、1964出版)》
The Old Home Rag (completed at least in 1908.)
Alabama Rag (with Amelia L. Lamb)
Bird-Brain Rag
Cottontail Rag
Hot Cinders
Ragtime Bobolink
Blue Grass Rag
Thoroughbred Rag
Chimes Of Dixie (with Amelia L. Lamb)
Arctic Sunset (with Amelia L. Lamb)
Toad Stool Rag
Good And Plenty Rag
Firefly Rag《A Little Lost Lamb (全18曲、2004年10月出版)》
The Alaskan Rag (1959)
The Beehive Rag (1959)
Chasin' the Chippies (1914)
Gee, Kid! But I Like You (1909)
Greased Lightening Rag (1959)
I Want To Be A Birdman (1913) (words by G. Satterlee)
I'll Follow the Crowd to Coney (1913) (words by G. Satterlee)
The Jersey Rag (1959)
Joe Lamb's Old Rag (1959)
Lorne Scots on Parade (1904)
Mignonne (1901)
My Queen of Zanzibar (1904)
Ragged Rapids Rag (1905)
The Rag-Time Special (1959)
Rapid Transit (1959)
Red Feather (1906)
Spanish Fly (1912)
Walper House Rag (1903)
《その他の出版されたラグ》
The Alaskan Rag (1959?) (published in the 3rd edition of "They All Played Ragtime" 1966.)
Brown Derby No.2 (1959?) (published in 1988.)
Ragtime Reverie (1959?) (published in 1993.)《未出版のラグ(これら以外にもあるはず)》
Hyacinth (c.1908-1914)
Scott Joplin's Dream (c.1950-1959?)(arranged by Eubie Blake)
◎ラムの「ノベルティー・ラグ」について
このラムの作曲リストに入っていない幻のピアノ曲として、別に15曲の「ノベルティー・ラグ」の存在が知られています(ただし、この中には『Ragtime Treasures』の Hot Cinders などが含まれていたようです)。これは、1920年代にラムが別の出版社である Jack Mills に売りこんだもので、当初はスタークから出版できなかったラグを持ちこんだもののミルズはラグタイムに興味を示さず、ミルズの意向に沿って新たにこれらのノベルティーを作曲したらしいのです。当時、技巧的なノベルティーは流行りのスタイルでした。ところが、ミルズが1935年に事務所を移転した際、この話は結局立ち消えになってしまいました(楽譜が紛失したのか、単に没になったのか、詳しい事情は不明)。これは、プロの作曲家ではなかったラムにとっても、やはりショックだったと言えるでしょう。
ノベルティーにも詳しい現代ラグタイム・ピアニストの Matthew Davidson は、アルバム『Space Shuffle』(1992)のライナーで冷静に分析しています。「(ラムの Hot Cinders には)当時の Rube Bloom(ノベルティーの大家)の音楽を凌駕するような表現は無い」と。私は Hot Cinders もいい曲だと思うのですが、やはりラムはクラシック・ラグの作曲家であり、それでこそ最大限の実力を発揮できたのでした。自分のいいと思うスタイルとは違う曲をわざわざ出版社に合わせて作ったのに、それが取り上げられなかったことは、作曲者として屈辱であり、当時のラムの心中は察するに余りあるのです。
おそらくこのミルズの冷淡ともいえる仕打ちが、彼の作曲家としての自信を奪い、その後1949年に再発見されるまでの長い沈黙期間につながってしまったと思います。もしルディ・ブレッシュらによって再発見されなければ、そのまま貴重な才能が忘れ去られてしまったかも知れません。ラム自身は『A Study In Classic Ragtime』(1959)の中で、こう述べています。「私は自分の作曲でお金を稼ぐつもりはなかった。ただそれが出版されるのが見たかった、私の夢は偉大なラグタイム作曲家になることだったから」。このアマチュア音楽家としてのスタンスを、彼は生涯崩さなかったといいます。しかし先の Matthew Davidson は、「ラムが自分の偉大さに全く無自覚であったことは、とても奇妙で悲しいことだ」とも記しています。
ラムの死後の1964年、ルディ・ブレッシュの尽力で、ラムの生涯最後の傑作『Ragtime Treasures』が出版されました。この楽譜集が、会社を売却する一年前のミルズから出版されたのは、ブレッシュがミルズにせめてもの罪滅ぼしをさせたとも見ることができます。ブレッシュのようなよき理解者がいたからこそ、ラムはスターク時代を超えて、ラグタイム史に残る真に偉大な作曲家となったのだと私は思います。
◎ラムの曲が入ったアルバムについて
ラムの優れたラグタイムに触れたい人にとって、その機会はそれほど多く提供されているとは言い難いのが現状です。ここでは、私が知り得たジョセフ・ラムの曲が入ったアルバムの内、特にお勧めのものを列挙していきたいと思います。その他の情報がございましたら、是非ご教授お願いいたします。
《ピアノ》
CD:Champagne Rags -The Classic Piano Rags Of Joseph Lamb/John Arpin
名ピアニストのジョン・アーピンと言うだけでも注目。スターク時代の12曲がまとめて聞けるアルバムの先駆けという意味でも、歴史的名盤である。
CD:Joseph F. Lamb: Complete Stark Rags (1908-1919)/Guido Nielsen
同じくスターク時代の12曲がまとめて聞ける。こちらの方が手にいれやすいかも。
CD:Space Shuffle and Other Futuristic Rags/Matthew Davidson
Cottontail Rag, Hot Cinders など、スターク以外のラグ5曲を収録。
CD:The Complete Scott Joplin Vol.4/Scott Kirby
題名に反して、Sensation と、スターク以外のラグ2曲(The Alaskan Rag, Bird-Brain Rag)を収録。彼の Alaskan Rag の演奏は、私が今まで聞いた中でも特に素晴らしい。
CD:Tempus Ragorum/Trebor J. Tichenor
一曲のみだが、Ragtime Reverie の初演を収録している。ラムのファンなら是非聞いて欲しい。
CD:Early Tangos To New Ragtime/David Thomas Roberts
The Bee-Hive と Rapid Transit Rag を収録。ほとんど聞く機会のない曲なので必聴盤。
CD:Rags & Tangos -Ernesto Nazareth,James Scott,Joseph F. Lamb-/Joshua Rifkin
スターク時代の4曲を収録。日本盤があるため手に入れやすいはず。
LP:The Best Of Scott Joplin (2LP)/Max Morath
Max Morath の名盤。American Beauty Rag, Ragtime Nightingale, Patricia Rag, Cottontail Rag の4曲を収録。特に Patricia Rag と Cottontail Rag は、珠玉の名演といえる。CDにもなっていたはず。
CD:Ragtime Classics Played By Wally Rose
Topliner Rag の一曲のみだが、何とドラムスとの掛け合いが楽しめる。ラムのヘビーな(音楽的密度の濃い曲をラムはそう表現した)ラグをいち早く(1953-1960)紹介したレコードとして重要。
CD:American Beauties/Virginia Eskin
スターク時代から6曲、『Ragtime Treasures』から10曲、他にThe Alaskan Rag、Brown Derby No.2、Ragtime Reverie、Walper House Rag を収録。曲目的には、最も広範囲にラムの魅力を追っているアルバムと言えるが、もう少しゆっくり弾いて欲しい気もする。
LP:A Study In Classic Ragtime/Joseph Lamb
Folkways Records から死の一年前(1959)に発表された、唯一の自作自演集。ピアノ・ラグ10曲とインタビューで構成されている。曲目は以下の通り。Cottontail Rag, Excelsior Rag, Cleopatra Rag, Sensation, Topliner Rag, The Alaskan Rag, Ragtime Naightingale, American Beauty Rag, Contentment Rag, Patricia Rag。それほど上手いとは言えない演奏だが、淡々と弾く中に作曲家の魂が感じられる。
CD:A Little Lost Lamb/Sue Keller
精力的にアルバムを出している女性ラグタイマーのスー・ケラーが、ラムの未発表曲を集めて発表した同名の楽譜集と同じ内容の最新アルバム(2005)。今まで想像するしかなかった曲の数々が、すばらしいピアノ演奏と痛快な歌で堪能できる、ラグタイム史上の名盤。なお、ラムの娘のパトリシアさんが、歌で一曲に参加しているのも微笑ましい。
《ギター編曲》
LP:Classical Ragtime Guitar/David Laibman
言わずと知れた、ラグタイム・ギターの歴史的名盤。ラムの曲は5曲で、Ethiopia Rag、Contentment Rag、Ragtime Nightingale、The Alaskan Rag、Cottontail Rag を収録。ピアノに負けてなるものかという執念が感じられる。CD:10 Classic Rags by Scott Joplin & Joseph Lamb/David Laibman
上記のレコードが新たにCD化されたものだが、Bolcom の Graceful Ghost Rag のみ削られているので注意(理由は不明)。皮肉にもこの Graceful Ghost Rag が最大の聴き所と言ってもいいので、少し残念。LP:Famous Ragtime Guitar Solos/Ton Van Bergeyk
ラムの代表作 American Beauty Rag を収録。前半のみのアレンジだが、叙情的な曲の良さを生かした素晴らしい演奏である。このレコードでラムという作曲家の存在を知ったギタリストは多いはず。私もその一人である。LP:Novelty Guitar Instrumentals/V.A.
タイトルに反してほとんどクラシック・ラグを集めたレコード。私は隠れた名盤だと思っている。ラムの曲は Sensation(Bob Evans)、Bohemia Rag(Tony Marcus)、Ragtime Nightingale(Lasse Johansson & Claes Palmqvist)の三曲。
このうち、Sensation のアレンジは前半のみ。生き生きとした良い演奏だが、この曲は後半部も素晴らしいのでその点が惜しい。Bohemia Rag は良くまとまっている好編曲。Ragtime Nightingale の美しい演奏は、他には例のない二重奏アレンジで、Lasse Johansson らの代表的名演に挙げられると思う。LP:Masters Of The Ragtime Guitar/V.A.
Cleopatra Rag と Patricia Rag を収録。これらは名ギタリストの Duck Baker の演奏で、彼の個性的なラグタイム・アレンジの真骨頂が味わえる。CD:Fingerpicking Guitar Delights/V.A.
LP『Novelty Guitar Instrumentals』の中の、Ragtime Nightingale(Lasse Johansson & Claes Palmqvist)を収録。CD:浜田隆史・プレイズ・ロベルト・クレメンテ
私(浜田隆史)の最新アルバム(2005)に、ラムの曲 The Alaskan Rag とRagtime Bobolink が収録されている。収録に際しては、ラムの娘のパトリシアさんから楽曲の使用許諾を頂いた。この曲が入った意義は大きいと私は考える。
文:浜田 隆史さん
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